ハイドン 交響曲第54~56番
さて、今回はハイドンの交響曲第54~56番についてお話します。
最初に第54番、
交響曲第54番ト長調 Hob.I:54は、ハイドンが1774年に作曲した交響曲で、感情の表現を主体にしたシュトゥルム・ウント・ドラング期を脱し、より単純で娯楽的な方向へと進んだ時期の作品で、編成や構成の点で作曲者の後期様式に繋がる発展が見られます。
本曲から交響曲第57番までの4曲は自筆原稿から1774年に作曲されたことがわかっていますが、そのうち最大の規模を持ちます。
本曲は2回にわたって改訂されました。1774年の初版は序奏がなく、楽器編成も当時のハイドンの標準的な編成(オーボエ・ファゴット・ホルン各2本と弦楽)を持っていましたが、第2版で序奏が追加され、第3版ではフルート・トランペット・ティンパニが追加されました。通常演奏されるのは1776年ごろに書かれた第3版で、ハイドンの交響曲の編成としてはロンドン交響曲以前では最大規模となります。
第1楽章 Adagio maestoso - Presto
付点音符を多用した3⁄4拍子の序奏の後2⁄2拍子に変わります。第1主題はファゴットとホルンによって演奏され、弦楽器がユニゾンでオスティナート音型で伴奏されます。曲はこの伴奏音型により展開されます。
第2楽章 Adagio assai
ハ長調、3⁄4拍子、ソナタ形式。ハイドンの全交響曲中、最も遅く、珍しい速度表示をとる緩徐楽章です。演奏時間も長く、全てのリピートを実行すると20分近くを要します。後のロマン派交響曲の緩徐楽章へと通じる繊細で感動的な、深い情緒を称えています。
フルート・ファゴット・トランペット・ティンパニは休み、提示部では大部分が弱音器をつけたヴァイオリンによって演奏されます。展開部は変ロ音のユニゾンに始まり、ニ短調で進行します。再現部の主題は管楽器が加わります。最後近くに第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンだけの長いカデンツァ風の部分があります。
第3楽章 Menuet - Trio
前打音を伴った、軽快で特徴的な主題をもちます。トリオは第1ヴァイオリンとファゴットがユニゾンで歌います。
第4楽章 Finale: Presto
4⁄4拍子、ソナタ形式。第1主題は、跳ねるようなシンコペーションのリズムの伴奏の上に軽快に歌われます。第2主題は足踏みするようなヴァイオリンの旋律の裏で伸びる、提示部ではオーボエ、再現部ではファゴットの保続音が特徴的です。通して軽快な気分に貫かれています。
次に、第55番、
交響曲第55番変ホ長調 Hob.I:55は、ハイドンが1774年に作曲した交響曲で、通称『校長先生』(ドイツ語: Der Schulmeister)。
交響曲第54番から交響曲第57番までの4曲は自筆原稿から1774年の作曲であることがわかっています。この4曲の中にあって55番は比較的軽い曲です。
「校長先生」の通称はハイドンの関与するところではないそうです。ハイドンの生前にはこの名前は存在せず、1840年のフックス目録に出現します。第2楽章の主題の規則正しいリズムが作品の通称の由来だといわれています。なおハイドンが「校長先生」と呼んだ交響曲は別に存在し(現存はしていません)、またエルンスト・ルートヴィヒ・ゲルバー(英語版)の1810年代の著書では交響曲第43番にこの名前を与えています。あるいはハイドンに「校長先生」という曲があることを知っていた人がこの曲に通称を割り振ったのかもしれません。
あまり適切な名称ではないですが、この名前のためにポピュラーになったことは否めません。
様式的には変奏曲を第2楽章と第4楽章に採用していることが特筆されます。従来のハイドンの交響曲では緩徐楽章はソナタ形式が主で、変奏曲は珍しいものでしたが、この曲以降は変奏曲が増えます。
第1楽章 Allegro di molto
3⁄4拍子。主題は単純明快ですが、展開部が長く、途中に偽の再現部が含まれます。ハイドンの交響曲にはしばしば偽の再現部が現れますが、この曲では「偽」の部分が長いために再現部が2つあるように聞こえます。
第2楽章 Adagio ma semplicemente
変ロ長調、2⁄4拍子。主題と5つの変奏からなる変奏曲です。主題は弱音器をつけたヴァイオリンによって演奏され、「semplice」と記されたスタッカートと付点つきのリズムを持つ部分と、「legato」と記された対照的になめらかで修飾の多い部分が交替します。第1変奏は主題そのままと見せて途中からフォルテで全奏が加わります。第2-4変奏は弦楽器のみで、それぞれ異なるリズムを持ちます。最終変奏で再び全部の楽器が使われます。
第3楽章 Menuetto - Trio
メヌエットは付点付き音符を多用しています。対照的なトリオは2つのヴァイオリンとチェロによる三重奏(文字通りのトリオ)になっています。
第4楽章 Finale: Presto
2⁄4拍子、ロンドと変奏曲を融合させたような形式。ハイドンらしいユーモアを効かせた主題に始まり、管楽五重奏の部分が続き、さらに中間部は変ト長調という異例の調を取るなど興味深いものです。交響曲第42番の最終楽章によく似ています。
最後に第56番、
交響曲第56番ハ長調 Hob.I:56は、ハイドンが1774年に作曲した交響曲です。
交響曲第54番から交響曲第57番までの4曲は自筆原稿によって1774年に作曲されたことがわかっていますが、そのうち第56番はトランペットとティンパニを含んでいます(第54番のトランペットとティンパニは後から追加されたもの)。エステルハージ家の楽団にはトランペット奏者は常設ではありませんでしたが、1774年前後にハイドンは本作のほか交響曲第50番と交響曲第60番(どちらもハ長調で、劇音楽の転用)、およびオペラ『突然の出会い』Hob.XXVIII:6にトランペットを使用しています。
第1楽章 Allegro di molto
3⁄4拍子。下降分散和音ではじまり、フェルマータの後に対照的な第2主題が現れます。再現部ではフェルマータの部分にティンパニのトレモロが加えられています。全体的にヴァイオリンのトレモロを多用します。
第2楽章 Adagio
ヘ長調、2⁄4拍子、ソナタ形式。トランペットとティンパニは休みで、弱音器をつけたヴァイオリンによっておだやかな主題が演奏されます。主題がオーボエに引きつがれた後、ファゴットの長いソロが続きます。
第3楽章 Menuet - Trio
かなり長い曲で、トリオを除いた部分が小型のソナタ形式のような形をしています。全楽器が1小節休んだ後に「再現部」が現れます。トリオはヘ長調の素朴な曲で、オーボエと弦楽器だけで演奏されます。
第4楽章 Finale: Prestissimo
4⁄4拍子、ソナタ形式。三連符の連続による忙しい曲です。
さて、かずメーターですが、
54番 85点
55番 83点
56番 82点
となりました。
54番は堂々とした雰囲気で始まります。第二楽章以外はとても雄大で楽しい曲です。
55番は全般的に華やかな曲です。楽章毎のばらつきも少なく、どこからでも楽しめます。
56番はいずれの楽章も弦楽か綺麗で引き込まれます。ただ第二楽章オーボエが好きでないため、減点してあります。
これからも気合入れて取り上げていきたいと思います。