ショスタコーヴィチ 交響曲第9番
さて、今回はショスタコーヴィチの交響曲第9番についてお話します。
交響曲第9番 作品70は、ショスタコーヴィチが作曲した9番目の交響曲です。
第二次世界大戦のさなかに、第7番、第8番の2作品を発表したショスタコーヴィチは、戦後にこの曲を発表しました。いわゆる「戦争3部作」の最後の作品です。初演当時は「勝利の交響曲」とも呼ばれましたが、前2作とはかけ離れた軽妙洒脱な作品は、ベートーヴェンが作曲したような壮大な「第九」を望んでいた当局の意向に沿わなかったそうです。彼はその後、いわゆるジダーノフ批判を受け、苦境に立たされることとなります。
この作品は、第二次世界大戦（ロシアでは「大祖国戦争」）の勝利を祝うために手掛けらました。戦勝が決定的となった1944年11月7日の革命記念日における作曲者の発言には勝利をテーマとする作品の創作をほのめかす部分があり、同年暮れにはその作品に着手したという情報が流れました。翌1945年1月にショスタコーヴィチは生徒のエヴゲーニー・マカロフに作品のスケッチの一部を聞かせ「今度の作品は管弦楽のトゥッティ（総奏）から始まるのさ。」と説明しました。おりしも、自身の「祖国の勝利と国民の偉大さをたたえる合唱交響曲を制作中である。」というオフィシャルな発言は、ベートーヴェン以来の「9番」という番号の重要さとともに、周囲に大きな期待を抱かせたのです。4月には友人のイサーク・グリクマンが第1楽章を聞いてその壮大さに感銘を受けましたが、ベートーヴェンとの比較に少なからぬプレッシャーを感じているというショスタコーヴィチの言葉をも聞いています。
その直後、創作は一時中断され、5月9日の戦争終結記念式典にも演奏されることはありませんでした。おそらく、最初のスケッチは廃棄されたものとされていましたが、四管編成のオーケストラの断章スコアが2003年に発見され、この交響曲断章は、2006年にロジェストヴェンスキーによってモスクワで初演され、2008 年にはマーク・フィッツ=ジェラルドの指揮により録音されました。このころ作曲された未完のヴァイオリンソナタには交響曲第10番に類似した部分があり、作曲者自身の内面を知るうえで重要なポイントです。
7月に創作が再開、8月30日に全曲完成。9月4日のリハーサル、11月3日の初演となりました。初演はおおむね好評でしたが、見事に肩透かしをくらわされた政府関係者には、スターリンを揶揄するものと受け止められました。果せるかな「当惑を引き起こし、同時代の感じる理念や感情からほど遠い。・・・皮肉っぽい懐疑主義と様式主義から抜け出していない。」（イズライリ・ネスチエフの批評）といったような悪評が次々と出て、ショスタコーヴィチを袋叩きにし、さらにはジダーノフ批判につながっていくのでした。
この曲は5つの楽章から構成されます。演奏時間は約25分。
第1楽章
Allegro、ソナタ形式、2分の2拍子。
軽やかな弦楽と木管楽器の導入部で始まります。金管楽器の荒々しいファンファーレを過ぎると一転してピッコロによるひょうきんな主題が奏でられます。この主題が第1楽章を支配しています。最後は導入部が再現されて唐突に終わります。戦争の終結を素直に祝うかのような洒落た出来です。
第2楽章
Moderato - Adagio、二部形式、4分の3拍子。A - B - A - B - コーダ。
クラリネットの虚無感を漂わせる旋律から始まります。基本的に4分の3拍子ですが、旋律の所々にため息のように4分の4拍子が挿入されます。
第3楽章
Presto、スケルツォ、8分の6拍子。A - B - Aの三部形式。
明るい全音階的第一主題が現われ、次いで半音階的な第2主題が続きます。中間部ではトランペットが旋律を奏で、タンバリンが加わり華やかさが加わります。やがてゆっくりとした悲しげな調べとなりアタッカで次の楽章に続きます。冒頭のクラリネットソロは超絶技巧のひとつであるそうです。
第4楽章
Largo、4分の4拍子。
独立した楽章というよりは、第3楽章から第5楽章への受け渡しという側面が強いです。突如トロンボーン、チューバのファンファーレが鳴り響きます。ファンファーレが終わると、ファゴットのカデンツァが浮かび上がってきます。これを2回繰り返し、ため息のようなパッセージを奏でると、そのまま第5楽章へ突入します。
第5楽章
Allegretto、終曲、ロンド・ソナタ形式、4分の2拍子。
ファゴットが第4楽章から引き続いて、"行進曲"風の第1主題を奏でるが、どこか物悲しさ、心の迷いを含んでいます。その旋律がヴァイオリンに移り、木管による推移となります。再度、第1主題が確保されると、第2主題がハ短調でヴァイオリンによって奏されます。展開部は、ホルンの合図によって開始され、4分の3拍子を交え不安定感を加えながら展開していきます。提示部の木管の推移を弦楽器が刻み出し、ホルンがシンコペーションで追い立て、やがて最高潮に達します。再現部となり、第1主題がトランペット、トロンボーン、コントラバスのピッツィカートで現れます。提示部のそれとは違い、他の楽器の妙に明るい伴奏に乗って、勇ましく吹き上げます。直後に、第2主題が変ホ長調でヴァイオリンや木管に現れ、これも提示部とは違って、とても明るいものです。この第2主題がトランペットによって中断されると、急にテンポを上げ、第1主題によるコーダとなります。これも4分の3拍子を交えて不安定に走り、一気に駆け抜けて楽章を閉じます。
この終楽章ではユダヤの民謡旋律がパロディとして含まれています。それは、ナチス・ドイツの崩壊によってもたらされた第2次世界大戦の勝利を描き、ユダヤ人の解放を意図した終楽章であるという解釈があります。
さて、かずメーターですが、
第一楽章 84点
第二楽章 82点
第三楽章 81点
第四楽章 82点
第五楽章 84点
簡単にいいますとあまりクラシックをお聞きにならない方はちょうどいい曲なのかもしれません。ただ、説明者が「洒落た」という表現が自分には「おもしろ」にしか聞こえないのです。第7番の失敗（だとは思っていないのかもしれませんが）をまた繰り返して当時の政府に反感を買うって、本当に勉強しない人というか懲りない人です。
通しで聴くと戦後荒廃した町が活気を帯びて再生していくといった曲にも受け取れるのですが、もう少し第一楽章はどうにかならなかったのかそこが不満です。
