交響曲、大好き!

交響曲といっても知られていないものも多いと思います。 皆さんが聞きなれた/聞いたことがない交響曲を紹介していければと思います。

チャイコフスキー 交響曲第5番

今回はチャイコフスキー交響曲第5番についてお話します。

チャイコフスキーの円熟期にあたる1888年の作品で、交響曲第4番とは作曲時期に10年の隔たりがあります。

4つの楽章からなり、演奏時間は約42分です。一つの主題が全ての楽章に登場し作品全体に統一感を与えています。この主題は「運命」を象徴しているとされており、第1楽章の冒頭で暗く重々しく提示されますが、第4楽章では「運命に対する勝利」を表すかのように輝かしく登場するといった具合に、登場するつど姿を変えます。第1楽章と第4楽章は序奏とコーダがあるソナタ形式です。緩徐楽章である第2楽章は極めて美しい旋律をもち、第3楽章にはスケルツォの代わりにワルツが置かれています。

チャイコフスキーは初演を含めて6回この曲を指揮しましたが、作品に対する自己評価は揺れ動きました。今日では均整がとれた名作の一つとして高く評価されており、交響曲第4番、交響曲第6番『悲愴』とともに後期の「三大交響曲」として高い人気を得ています。

 

1887年1月に自作のオペラ『チェレヴィチキ』の初演で指揮者として本格的にデビューしたチャイコフスキーは、12月には指揮者として初のヨーロッパ演奏旅行に出発しました。翌1888年3月にかけてライプツィヒハンブルク、ベルリン、プラハ、パリ、ロンドンなどの各都市で成功をおさめるとともに、ブラームスマーラーグリーグドヴォルザークリヒャルト・シュトラウス、マスネ、ドリーブといった作曲家や各地の演奏家と交流しました。

この演奏旅行中、ハンブルクでは同地のフィルハーモニー協会理事長テオドール・アヴェ=ラルマンに出会い、親交を深めました。84歳にしてハンブルク音楽界の重鎮であるアヴェ=ラルマンは大のロシア嫌いであり、チャイコフスキーの音楽に対しても打楽器がやかましいなどとして否定的でした。しかし、アヴェ=ラルマンはチャイコフスキーにドイツの優れた作曲家にも通じる資質を認め、ロシアを捨ててドイツに移住することを熱心に勧めたといいます。後に交響曲第5番が完成すると、チャイコフスキーは当初交響曲を献呈してようと考えていたグリーグではなく、アヴェ=ラルマンに作品を献呈しました。その理由については、ハンブルク滞在中における細やかに気配りに感動したからとも、彼のロシア音楽に対する見方を変えたかったからとも言われます。

 

ヨーロッパ演奏旅行の帰路、チャイコフスキーは弟アナートリィが控訴院の検察官として赴任していたティフリス(現在のジョージアの首都トビリシ)に立ち寄り、4月7日(ユリウス暦3月26日)から4月26日(ユリウス暦4月14日)までの3週間をそこで過ごしました。ここから弟モデストやフォン・メック夫人にあてた手紙では、夏に新しい交響曲を作曲するつもりであると述べていましたが、5月27日(ユリウス暦5月15日)でモデストにあてた手紙では、様々な校訂作業があるために交響曲にはまだ着手できていないと報告しています。

ところが、そのわずか4日後に書かれた5月31日(ユリウス暦5月19日)付けのモデストあての手紙には「目下、役に立たなくなった自分の脳味噌から、苦心惨憺して交響曲を絞り出すことを始めようとしている。」とあることから、この日以降、作曲の作業に取りかかったものと考えられています。チャイコフスキーはここから約1か月の間に全曲のスケッチを完成させ、引き続きオーケストレーションに取りかかり、8月26日(ユリウス暦8月14日)に作品を完成させています。

11月8日(ユリウス暦10月27日)には楽譜の初版がユルゲンソーン社から出版されました。また、四手ピアノ版がセルゲイ・タネーエフによって編曲されており、その第2楽章と第3楽章が11月6日(ユリウス暦10月25日)、モスクワにおいてタネーエフとアレクサンドル・ジロティのピアノによって披露されています。

 

「運命の主題」

交響曲第5番では、第1楽章冒頭の主題(下の譜例)が全楽章にわたって登場する。この主題は「運命」を表していると考えるのが通例であり、「運命の主題」と呼ばれます(「主想旋律」のように呼ばれることもありますが、本稿では以下「運命の主題」と呼ぶ)。主題の後半(譜例では第4小節の4拍目以降)に見られる下行する音階は、第3楽章の最初のワルツ主題や第4楽章の第1主題などにも関連する重要な動きです。


  \relative c' { \time 4/4 \clef treble \key e \minor \tempo "Andante" 4 = 80  g4. g16 g a4.( g16-.) fis-. g4( e2.) b'4. b16 b c4.( b16-.) a-. b4( g2) e'4-- d-- c-- b-- a-- g2. e'4-- d-- c-- b-- a-- g2~ g8 }

「運命の主題」は登場するたびにテンポやニュアンスを変えます。チャイコフスキーがエクトル・ベルリオーズの「イデー・フィクス」(idée fixe、固定楽想)に学んだこの手法は、1885年の『マンフレッド交響曲』ですでに用いられていて、交響曲第5番の翌年に作曲されたバレエ音楽『眠りの森の美女』ではさらに磨きをかけた形で使われることになります。

 

第1楽章

序奏とコーダをもつ自由なソナタ形式

序奏はアンダンテ、4分の4拍子。2本のクラリネットが暗く重々しい「運命の主題」を提示します。交響曲第4番の冒頭に出る激しく圧倒的なファンファーレも「運命」を象徴していますが、第5番の「運命」は暗澹として弱々しく、絶望感に満ちており、「運命への服従」を暗示しています。

主部はアレグロ・コン・アニマ。弦楽器が pp で刻む行進曲調のリズムに先導され、クラリネットファゴットホ短調の第1主題を提示します。この主題は「運命の主題」から派生しており、前述したように第4楽章の最後でも登場します。

音楽は転調を繰り返しながら盛り上がり、第1主題が fff で確保された後、そのまま第2主題群に入ります。ここでは2つの重要な主題が提示されます。1つはホ短調属調にあたるロ短調による主題で、ため息のような半音の下行(ニ - 嬰ハ)を含んでいます。

もう1つは叙情的なニ長調の主題であり、6拍子ではあるがワルツのような性格をもっています。

この2つの主題については、上が推移主題で下が第2主題とする見解、上が第2主題で下が推移主題とする見解、提示部の主題が第1主題を含めて3つあるという見解に分かれています。

ニ長調の主題の前後には、活力のある動機が演奏されます。園部(1980)はこの動機を「生命の歓喜に満ちた陽気なさえずり」と表現しています。なお、展開部では各所にこの動機が散りばめられます。

展開部は第1主題を中心として転調を繰り返しながら動機の展開が行われ、クライマックスを形作った後は次第に静まっていき、ホ短調に戻って再現部となります。

ファゴットのソロにより第1主題が再現されますが、ベースは主音のホ音ではなく属音のロ音になっています。再現部は和声的な安定感が避けられており、第1主題の fff での確保はホ短調ではなく嬰ヘ短調で行われ、続く第2主題群も嬰ハ短調ホ長調で再現され、コーダに入ってようやくホ短調に辿り着きます。

コーダの後半ではベースラインが「運命の主題」に基づく下行音形を繰り返す中、第1主題が執拗に反復されてディミニュエンドしていき、最後はファゴット、チェロ、コントラバスティンパニが残り、 pp で暗く重い結末となります。

 

第2楽章

三部形式。「多少の自由さをもつアンダンテ・カンタービレ」の指示があります。 デュナーミクは pppp から ffff までと全楽章の中で最も幅があり、テンポの変化も全楽章の中で最も多いものです。美しい旋律と劇的な展開をもった楽章であり、オペラを器楽に移し替えたような趣があります。

曲は8分の12拍子で開始されます。弦楽器の低音による静かなコラール風の前奏に続き、ホルンのソロにより主旋律が提示されます。甘美かつ抒情的で、チャイコフスキーの旋律美が発揮された名旋律です。

次に嬰ヘ長調に転調しオーボエとホルンが副次旋律をカノン風に提示しますが、直ちに再び第1主題の登場となります。今度はチェロが旋律を担当し管楽器が対旋律を絡めます。間もなく、弦楽器が副次旋律を情熱的に演奏してクライマックスを築きます。

中間部に入るとテンポがやや速くなって(モデラート・コン・アニマ)4分の4拍子となり、新しい嬰ヘ短調のノスタルジックな旋律がクラリネットによって演奏され、ファゴットに受け継がれます。

音楽が加速して大きく盛り上がると、クライマックスで「運命の主題」が力強く回帰します。休止のフェルマータを挟んで再現部となり、ピッツィカートの伴奏にのって第1ヴァイオリンが主旋律を演奏します。なお、単なる再現ではなく伴奏や対旋律などが変化しています。やがて主旋律は感情を強めていき、その頂点で副次旋律が弦楽器により fff で歌われ、さらに ffff のクライマックスが築かれます。そこから音楽は次第におさまっていきますが、突然、「運命の主題」が fff で強奏されます。コーダでは弦楽器が副次旋律の断片をカノン風に演奏されながら静まっていき、クラリネットのソロにより楽章は pppp で静かに閉じられます。

 

第3楽章

コーダをもつ複合三部形式アレグロモデラート。

本来であればスケルツォ楽章がおかれるところですが、チャイコフスキーは新しい試みとしてワルツを配置しました。なお、多楽章形式の作品ではすでに『弦楽セレナーデ』の第2楽章にワルツをおいていますが、交響曲では初めてです。

ワルツの旋律は3種類あり、弦楽器や木管楽器によって演奏されます。

曲は前奏なしに優雅な第1のワルツから始まります。旋律は「運命の主題」に関連する下行音階から始まっています。この旋律が最初に第1ヴァイオリンで提示される際、伴奏は各小節の1拍目が休符になっているため、聴く者の拍節感を狂わせる効果があります。

オーボエファゴットによって演奏される第2のワルツ。この旋律がクラリネットに引き継がれると、ホルンのゲシュトップフトの音色が背景を彩ります。この後、第1のワルツがクラリネットファゴットに戻ってきますが、ここでもゲシュトップフトの音が背景で聴かれます。

ファゴットのソロによる第3のワルツ。シンコペーションが特徴的です。他の木管楽器を加えて繰り返されます。

中間部はテンポはそのままで嬰ヘ長調に転調します。16分音符のパッセージが特徴的であり、スケルツォ的な軽やかな音楽となっています。また、途中で3拍子の中に2拍子が入るポリリズムが使われています。

第1のワルツが戻ってくる部分では、オーボエが演奏する旋律と、チェロとヴァイオリンが演奏する16分音符のパッセージがオーバーラップしており、スケルツォ的な中間部からワルツへの移行がスムーズに行われています。この後、第2、第3のワルツも回帰してコーダとなります。

コーダの後半ではクラリネットファゴットが3拍子に変形された「運命の主題」を pp で陰鬱に演奏されますが、唐突に ff の和音が現れて曲が終わります。なお、第3楽章にはトロンボーンテューバの出番がありません。

 

第4楽章

序奏とコーダをもつソナタ形式、またはロンド・ソナタ形式

輝かしい勝利と全民衆の祭典のようなフィナーレです。

序奏はホ長調、4分の4拍子。弦楽器、ついで管楽器によって「運命の主題」が荘厳に演奏されます。序奏のクライマックスが静まるとホ短調の第3音であるト音がティンパニトレモロコントラバスに残り、そこにアレグロ・ヴィヴァーチェで主部の第1主題が飛び込んできます。

第1主題はホ短調。弦楽器の下げ弓(ダウンボウ)の連続を含んでおり、荒々しく野性的です。また、「運命の主題」に関連する下行音形が含まれています。

曲は猛烈な勢いを保ったまま進行し、2つの推移主題をはさんで木管楽器群がニ長調の第2主題を提示します。第2主題もまた、「運命の動機」に関連する下行音形を含んでいます。

第2主題が盛り上がると、金管楽器ハ長調の「運命の主題」を ff で演奏します。「運命の主題」に引き続き、曲は展開部に突入し、第1主題がハ長調で演奏されます。展開部では第1主題、第2主題が展開されます。その終わりではリズムを刻むオスティナートがなくなり、弦楽器と木管楽器が掛け合いながら音楽は静まっていきます。pp が10小節間続いた後、突如 ff となり再現部が始まります。第1主題、推移主題、第2主題の順に再現されていき、結尾部で弦楽器の下行音階を背景として金管楽器が「運命の主題」を ff で奏し、さらに壮大に盛り上がってホ長調の属和音で一旦終止します。全休止をはさんでコーダとなります。

コーダは4分の4拍子、ホ長調。「運命の主題」が凱旋行進曲のように高らかに響き渡り、推移主題に基づく2分の2拍子の急速なプレストを経て、モルト・メノ・モッソ、4分の6拍子となり、ホ長調に変化した第1楽章の第1主題をホルンとトランペットが ffff で豪快に掛け合って最強奏の和音で力強く全曲を締めくくります。

 

さて、かずメーターですが、

第一楽章 89点

第二楽章 85点

第三楽章 84点

第四楽章 88点

となっています。第4番よりより分かりやすくなった感じですし、単純に高揚できる旋律が多いです。ただ、個人的にはドヴォルザークには負けるかなぁと思っています。

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