マーラー 交響曲第7番「夜の歌」
前回、マーラーの交響曲第6番が陰に始まり、陰で終わる、短調⇒短調の展開でしたが、打って変わって陰から陽で終わる曲です。たぶん、第6番で気分が悪くなった方はこの曲で浄化していただくことをお勧めします（笑）。
第6番に比べてまたまたオーケストレーションは大規模になり、オーケストラとしては珍しいギターやマンドリンの音色も出てきます。
第7番は、マーラーが1905年に完成した7番目の交響曲で、全5楽章からなります。
第7交響曲は、マーラーがウイーン在住時代に完成されています。第2楽章と第4楽章は1904年、交響曲第6番の完成に引き続いて作曲されており、これらの音楽には相互の関連が認められます。とはいうものの、第6番で打ち出された古典的形式への回帰とは異なり、第7番では、第5番と同様のスケルツォ楽章を中心とする対称的な5楽章構成をとっています。また、第1楽章がロ短調で開始されますが、主部はホ短調、終楽章はハ長調という「発展的調性」をとっていることも第5番と共通します。
しかし音楽的には、第5番より多声的書法にもとづく重層的・多義的展開がいっそう進んでいます。全体としては調性音楽のうちに踏みとどまってはいるが、部分的に調性はあいまいとなり、多調や無調の明確な誕生を予感させています。
管弦楽の扱いでは、管楽器、打楽器の充実は第6番と同様ですが、前作のハンマーの代わりに、ギターやマンドリン、テノールホルンなどが使用されています。全曲を通じてホルンが重視されており、よく目立ちます。奏法的に多彩なことも特徴で、音色・響きの工夫が凝らされ、劇性よりもむしろ室内楽的な配慮が見られます。
全楽章を通じての構成としては、ベートーヴェン以来の、「暗」から「明」に至る伝統的な進行が見られるものの、その経過にも帰結にもとくに明快な必然性が感じられないことから、物語としての読解が難しく、この曲は「構成的に難がある」「分裂症的」などと批判されてきました。
こうした経緯から、第7番は同じ純器楽のための作品でありながら、比較的明快で親しみやすい第5番や、緊密な構成のうちにきわめて劇的な音楽が盛り込まれた第6番の陰に隠れた存在として、マーラーの交響曲のなかでもあまり人気のない作品でした。しかし、1970年代後半から始まったマーラー・ブーム以降、第7番の再評価の動きも始まり、近年は録音機会にも恵まれ、さまざまな新しい解釈が生まれています。
なお当作品には第2・第4楽章「夜曲（Nachtmusik）」に由来する「夜の歌（Lied der Nacht）」という俗称がありますが、これは後世の後付けであり、マーラーおよび作品には全くの無関係です。
演奏時間約80分。
第7交響曲は、マーラーの他の交響曲と比較し、演奏機会が少ないんです。その理由としては、使用楽器が多く揃えづらいという「環境面」もありますが、最大の理由として、構成面と音楽自体がはらむ多義性が理解を困難にしていることも考えられます。具体的には以下のような議論がありますが、様々な解釈を語る前に忘れてならないのは、①マーラー自身がこの曲に副題をつけていないこと、②マーラー自身がこの作品の内的テーマについて何も語っていないこと、③アルマ・マーラーがこの曲について「この交響曲に一貫した標題はない」と回想していることです。
第1楽章 Langsam (Adagio) – Allegro risoluto, ma non troppo ゆるやかに → アレグロ・リゾルート・マ・ノン・トロッポ 序奏付きのソナタ形式。
序奏はロ短調。弦が引きずるような特徴的なリズムを刻む上に、テノールホルンが同じリズムを使った半音階的な主題を示します。特徴的なリズムについては、バロック音楽のフランス風序曲との関連が指摘されています。テノールホルンの主題については、マーラーは「自然が咆吼する」と述べています。木管が行進曲調の主題を出し、4度下降の動機が示されるとテンポを速め、ホ短調の主部に入ります。
第1主題はホルンとチェロの斉奏によって示され、トライアングルの響きを伴います。4度下降の動機は序奏で示されたもので、次作交響曲第8番の冒頭主題と親近性を持ちます。第2主題はハ長調、ヴァイオリンによる叙情的なものです。序奏で出た木管の行進曲が小結尾的に現れ、提示部を締めくくります。 展開部は長大で、各種動機や序奏の主題も扱われます。トランペットのファンファーレ（序奏のリズムに基づく）が現れると音楽は静まり、やがて第2主題がハープのグリッサンドに導かれて大きく歌われます。ここは全曲でも印象的な部分で、ワーグナーの『ワルキューレ』第1幕との関連を指摘されることもあります。この主題が最高潮に達したところで急激に落ち込み、序奏のリズムが戻るところは交響曲第6番のモットーを暗示します。つづくトロンボーンの独奏は交響曲第3番を思わせるものです。その後次第に力を増し、その頂点で第1主題が再現されます。 再現部はより劇的に進行し、コーダに入ると4度下降の動機が各楽器で繰り返され、次第に祝祭的な雰囲気になって、最後はホ長調で明るく結びます。
第2楽章 Nachtmusik I. Allegro moderato 「夜曲」 アレグロ・モデラート→アンダンテ・モルト・モデラート 拡大された三部形式。
序奏は、ホルンが呼びかけとその木霊のように掛け合い、盛り上がったところで交響曲第6番のモットー和音が出てきます。
主部はハ長調だが、ハ短調との間を行き来して定まりません。主要主題はホルンによる穏やかな行進曲です。低弦のカノン風な対旋律と弦の特徴的なリズムが伴っている。第2主題は変イ長調、チェロのより活気づいた旋律です。中間部はヘ短調、オーボエが哀愁を帯びた旋律を出します。この楽章は、モットー和音のほか、カウベルも鳴らされ、行進曲調であることなど、交響曲第6番との関連を強く印象づけます。カウベルは、はじめ舞台裏で、そのあとではオーケストラの中で鳴らされ、遠近感が示されています。コーダの直前では、木管楽器が鳥のさえずりのように奏するカデンツァ風な部分があり、のちの交響曲第9番第1楽章を思わせます。
第3楽章 Scherzo. Schattenhaft スケルツォ 影のように。流れるように、しかし早すぎずに 三部形式
弦による影のような旋律、木管の哀調を帯びたやや俗な旋律がさまざまに展開されます。各楽器の特殊奏法が駆使され、フォルテ記号が5個つけられ、弦を指板に打ち付けるような強い低弦のピッツィカート（バルトーク・ピッツィカート）など、多彩だが不気味な効果を出します。
中間部は二長調、オーボエが明るい主題を出しますが、ヴァイオリン独奏がすぐにもとの雰囲気に戻してしまう。
第4楽章 Nachtmusik II. Andante amoroso 「夜曲」 アンダンテ・アモローソ 三部形式
第2楽章が「夜の行進」とすれば、この楽章は純然たるセレナーデです。冒頭、ヴァイオリン独奏がオクターブ上昇し、なだらかに降りてくる音型を演奏し、ホルンとクラリネットが柔らかく主題を出します。この主題は第1楽章の序奏、「ボートのリズム」に基づいており、同時に前作交響曲第6番終楽章との関連を示します。ギターやマンドリンが夜曲の雰囲気を演出します。冒頭のブリッジ音型は何度も現れます。中間部は変ロ長調、チェロとホルンが和やかな旋律を演奏します。
曲はクラリネットのトリルで閉じられますが、マーラーは楽譜の最後の小節に、ドイツ語でersterbend（原義「消え入るように」。sterben（死ぬ）から派生）と、イタリア語のmorendo（「だんだん遅く、弱く」という音楽上の発想記号として使われる）の2つの指示を書き込んでいます。
第5楽章 Rondo-Finale. Allegro ordinario ロンド・フィナーレ アレグロ・オルディナリオ 自由なロンド形式
全体の構造はA-B-A-C-A-B-A-C-A-B-A-C-A-第1楽章第1主題回帰-C-A-コーダ
ティンパニが威勢の良いリズムを叩き、金管が呼応すると、トランペットとホルンが派手な主要主題を高らかに吹奏します。主要主題は変奏されながら楽章中に計7回再現されます。この主題は、音型と調性から、ワーグナーの『ニュルンベルグのマイスタージンガー』との関連が指摘されています。ホルンによる楽しげなリズムや弦による活気に満ちた経過句などがつづきます。いったん静まると木管が変イ長調で控えめな副主題を出します。この後、主要主題に基づくファンファーレをはじめとしてさまざまな素材が展開されます。やがて影が差すような雰囲気になると、第1楽章の第1主題がホルン斉奏によって示されます。しばらくこれを扱ううちに、第1楽章の第1主題は短調から長調に転じて全管弦楽で確保されます。再び冒頭部分が戻り、音楽はいっそう祝典的になり、鐘が鳴らされます。最後にもう一度第1楽章の第1主題を示し、全曲を明るく結ぶます。
さて、マーラーの第7番を「かずメーター」で評価しました。
第一楽章 89点
第二楽章 87点
第三楽章 85点
第四楽章 87点
第五楽章 90点
自分はマーラー大好き人間ですが第7番は聴く機会は他の交響曲に比べると本当に少ないです。でも、昔スコア譜面を一番読み込んだ記憶があります。また指揮者によって他の交響曲ほど演奏に差が出ない曲なのでじっくり一人の指揮者で聞きこんでみることをお勧めします。
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