交響曲、大好き!

交響曲といっても知られていないものも多いと思います。 皆さんが聞きなれた/聞いたことがない交響曲を紹介していければと思います。

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」

さて、今日はマーラー交響曲第6番についてお話します。

この曲、私の好きな交響曲のうちのひとつでその出会いも意外なものでした。

社会人になってまぁまぁクラシックは聞いていたのですが、なんの拍子か「ゴジラ」の映画音楽が気になってしまいその作曲家が日本人の伊福部昭という人であることを知りました。そこでCDを買いに行こうと思い、クラシック音楽のコーナーで伊福部昭さんの曲を手に取ったつもりがこの曲のCDを誤って買ってしまったのです。まぁちいさな楽器店だったので作曲家別になっていなかったとはいえ、自分の過失で購入してしまったCD、聞いてみたら、なんじゃこの迫力!ゴジラ映画よりもすごいぞ!って感じになってしまい、そこからマーラーの曲にはまってしまい、CDや楽譜、文献を読み漁ったのがマーラーのこの曲との出会いでした。

 

さて話を戻して…

マーラーは第2番から第4番までの3作において「角笛交響曲」と呼ばれる声楽入りの交響曲を作曲しましたが、第5番、第6番、第7番の3作においては声楽を含まない純器楽のための交響曲として作曲しました。とくにこの第6番では、同時期に作曲された歌曲に『亡き子をしのぶ歌』がありますが、第5番まで見られたような、相互に共通した動機や強い関連性は認められなくなっています。

大編成の管弦楽を用いながらオーケストレーションは精緻であり、古典的な4楽章構成をとりますが、その内容は大規模に拡大されていて、当時のマーラーの旺盛な創作力を物語っています。同時に、緊密な構成のうちにきわめて劇的な性格が盛り込まれており、純器楽的様式と、歌詞や標題とは直接結びつかない悲劇性の融合という点でも、マーラーの創作のひとつの頂点をなしています。

形式的には4楽章構成のほか、第1楽章の提示部繰り返しや、調性的にもイ短調で始まりイ短調で曲を閉じる一貫性を示しており、「古典回帰」を強く印象づけます。マーラーが作曲した交響曲の中では唯一、短調で始まり短調で曲を閉じる構成となっています。その一方、第4番、第5番から顕著になり始めた多声的な書法はいっそうすすみ、音楽の重層的・多義的展開が前面に現れています。第5番で異化された、「暗→明」というベートーヴェン以来の伝統的図式は、この曲では「明→暗」に逆転されていて、これを象徴する「イ長調イ短調」の和音移行(強→弱の音量変化と固定リズムを伴う)が全曲を統一するモットーとして用いられています。

管弦楽の扱いでは、管楽器と打楽器の拡大が目立ち、打楽器のなかでもとくに以下のものは象徴的な意味を持って使用されています。ひとつはカウベル(ヘルデングロッケン)であり、第1楽章、第3楽章、第4楽章で安息・平和あるいは現実逃避的な世界の表象として遠近感を伴って鳴らされています。もう一つは教会の鐘を模した低音のベルです。ベルは第4楽章に登場する。3つめはハンマーです。ハンマーは第4楽章で使用され、音楽的な転回点で「運命の打撃」(アルマ・マーラーによる)の象徴として打たれます。ハンマー打撃の回数については、後述するように作曲過程で変遷があったようです。

「悲劇的」(Tragische)という副題で呼ばれることがあり、この副題はウィーンでの初演時に附されていたとされています。しかし、これはマーラーが付けたものかどうかは不明です。

 

第1楽章 アレグロ・エネルジコ・マ・ノン・トロッポ 激しく、しかし腰のすわったテンポで 自由なソナタ形式

チェロとコントラバスが駆り立てるようなリズムを刻み、行進曲風な第1主題がヴァイオリンと管楽器によって奏でられます。第1主題はオクターブ跳躍下降を繰り返す威圧的なもの。

行進曲は断続的に不協和音によって遮られるが、やがてティンパニの特徴的なリズムの上に、トランペットの和音がイ長調からイ短調(明→暗)へと移行します。音量的にもフォルテッシモ(最強奏)→ピアニッシモ(最弱奏)となります。この和音は、全曲の統一的なモチーフ(モットーと呼ばれる)となっています。

木管のコラール風な経過句を経て、ヴァイオリンとフルートがロマンティックな情熱と感傷的な調子を込めた第2主題(「アルマの主題」といわれる)をヘ長調で出します。マーラー交響曲としては珍しいことですが、提示部の終わりに、古典派のソナタ形式と同じく繰り返し記号が付されています。

展開部では、第1主題を主に扱いますが、第2主題の動機が現れ始めたところで曲調が一転し、「徐々に、いくらかテンポを抑えて」と指示された挿入部に入ります。神秘的で清浄なヴァイオリンのトレモロチェレスタが柔和な和音を奏します。ここで、アルプスを思わせるようなカウベルの音が「遠くから」響き渡り、ホルンが提示部のコラール風の旋律を演奏します。平安な雰囲気が最高潮に達したところで、再び駆り立てるような調子が戻り、木管楽器シロフォンによって変形された主題の再現部へ入ります。

再現部は短縮され、さらに劇性を増しているが、両主題は型どおり再現されます。コーダは、第1主題に基づき葬送行進曲風に始まるが、次第に第2主題の暗示が強まります。ついに第2主題が勝ち誇ったように現れ、支配的になって、この楽章は第2主題の歓呼で結びます。

演奏時間は提示部反復を含めて21~25分程度。 提示部は長大だが反復される場合が多いです。

 

第2楽章 スケルツォ 重々しく 小ロンド形式(A-B-A-B-A-Coda)

スケルツォにトリオを2回挟む構造をとっています。まずチェロとコントラバスの低音弦とティンパニの刻むリズムにのって、ヴァイオリンが主要主題を演奏します。これにホルンとヴィオラが絡みます。第1楽章のオーボエの音型が使われ、この主部が様々な楽器によって変化し、効果をあげて、トランペットのモットー和音に移行します。これは第1楽章を思わせるもので、パロディ的な要素を含みます。

「古風に」と記されたヘ長調のトリオ(中間部)は、3/8拍子から4/8拍子、さらに3/4拍子へと絶えず不安定に交錯します。トリオは再現され、トリオのあとには木管の哀調を帯びたメロディーがつづくことから、構成をABCABCA+コーダ(Bに基づく)と見ることもできます。曲は哀調を帯びたまま沈んでいって終わります。

演奏時間は12~14分程度。

 

第3楽章 アンダンテ・モデラート 複合三部形式

ヴァイオリンの趣深く豊かな主要主題は、「亡き子をしのぶ歌」との関連が指摘されています。穏やかですが半音階的進行には不安も覗かせます。この旋律がフルートやオーボエなど各楽器に歌い継がれ、美しい情緒と牧歌的な雰囲気を広げます。この楽章全体が一本の旋律でつながっていると指摘する者もいます。ここでもモットー和音が多く使われるが、しばしば短3度→長3度(暗→明)という逆行が見られます。副主題が木管に現れた後、再び主要主題が現れます。これが消えると再び副主題が現れます。

中間部ではハープ、チェレスタも加わり、ホルンが楽しげに呼びかけ、トランペットが第1部の動機をもとにした旋律で応えます。そして再び主要主題が復帰します。しばらく落ち着いた雰囲気が続くが、トランペットの動機が絡んでくると副主題が現れさらに劇的に扱われ、クライマックスを形成していきます。カウベルの響きが終わり近く、哀しみが堰を切ったようにあふれ出しますが、次第に落ち着き、速度を落として静かに終わります。

演奏時間は14~18分程度。

 

第4楽章 終曲 アレグロモデラート → アレグロ・エネルジコ  序奏付きの拡大されたソナタ形式

序奏は、チェレスタやハープの分散和音による異様な響きから、ヴァイオリンが高く舞い上がってまた落ちてくるような悲劇的な主題を奏で、ティンパニのリズムを伴ってモットー和音が出てきます。主部の第1主題や第2主題の要素が断片的に取り扱われます。管楽器による挽歌風のコラールが奏されると次第に高揚します。全楽器がモットー和音を示すと、テンポを速め、アレグロモデラートからアレグロ・エネルジコに達すると、イ短調の提示部に入ります。

第1主題は自らを鼓舞するかのような悲壮感をたたえたもので、非常に好戦的な行進曲です。つづいてホルンが劇的な跳躍進行を示します。これを第2主題と見る解釈もあるが、再現しないことと、和声進行が序奏のコラールによっていることから経過句と見る方が自然です。この経過句の対位旋律として第1主題の行進曲のモティーフが絡みついています。第2主題は木管で軽快に、飛び跳ねるように現れます。

いったん序奏の雰囲気が戻るところから展開部。カウベルの響きから第2主題を経て次第に高揚し、チェロが威嚇するように第1主題の断片を奏するが第2主題が主導権を握り、ニ長調の勝ち誇ったような雰囲気で大きなクライマックスを築いたところで第1のハンマー(杵のような巨大なもの)が打ち鳴らされる。コラール風な音型が動揺を示しますが、立ち直って今度は勇壮な行進曲となり第1主題による本格的な展開が開始されます。ここでもモットー和音が何度も鳴らされます。交響曲第2番の第5楽章展開部の行進曲の動機も引用されます。これが「火のように」「いくらかせき込んで」「さらに一層せき込んで」と突進するように盛り上がり、再び第2主題が「徐々に落ち着いて」イ長調で凱歌を揚げようとするところで第2のハンマーとタムタムが同時に打たれます。「ペザンテ」でコラール風経過句の展開となるが、テンポを上げながら「前進!」し、タムタムの一撃で序奏の主題が戻るところから再現部となります。

モットー和音が示され、再び「遠くから」カウベルが響く。気分が落ち着くと「グラツィオーソ」で第2主題が先に再現します。「前進」「ピウ・モッソ」で次第に力を取り戻して、やっと第1主題が再現されるが、今度は小太鼓、グロッケンシュピール、トライアングルを伴って華やかに装飾されています。コラール風経過句もかなり変形されて再現され、激しい騎行のリズムに移ると劇的なクレッシェンドとシンバルの一撃でイ長調に転じ、「落ち着いて」「ペザンテ」で勝利を思わせる輝かしい曲調になるが、タムタムに導かれた3度目の序奏主題の回帰でイ短調のコーダに入ります。ティンパニのリズムとモットー和音が示されます(削除された第3のハンマー打撃箇所)。音楽は暗くうち沈み、金管がうめくような第1主題の動機を出すが、やがて次第に静寂へと向かいます。とどめをさすような強烈なイ短調の和音がたたきつけられ、ティンパニが容赦なくリズムを刻んで終わります。

演奏時間は27.5分~34.5分程度。

 

なお、交響曲第6番の演奏においては、以下のとおり、大きく2種類の問題点があります。

中間楽章の配置

ひとつは、第2楽章と第3楽章の配置です。初演の項でも述べたとおり、マーラーは、この配置について迷っていた形跡があります。スケルツォ-アンダンテの順では、スケルツォ楽章のパロディ性が強調されるとともに、第1楽章がイ長調で終わった後にイ短調で第2楽章が開始されることから、モットー和音の推移も意識されることになります。逆にアンダンテ-スケルツォの順は、第1楽章提示部の繰り返しとともに、全曲の古典的な造形が一貫性を持って強調されることになります。

1963年に出版された国際マーラー協会による「全集版」を校訂したエルヴィン・ラッツは、1907年1月4日のウィーン初演において、マーラーがプログラムの楽章順を変更してスケルツォ-アンダンテの順で演奏したとの報告を採用し、これをマーラーの最終意思としていました。これ以降、スケルツォ-アンダンテの順が「定説」化され、この順による演奏が一般的となりました。

しかし、2003年に国際マーラー協会は、従来とは逆にアンダンテ-スケルツォの楽章順がマーラーの「最終決定」であると発表しました。国際マーラー協会のホームページに収録されているクービック(1998年改訂版の校訂者のひとり)の見解では、マーラー自身がスケルツォ-アンダンテの順で演奏したことはないとしています。クービックの見解の根拠のひとつに、ジェリー・ブルックの論文「『悲劇的』な誤りを元に戻す」がある。これによれば、1907年のウィーン初演について、14人の評論家が報告しているが、マーラーがプログラムとは異なるスケルツォ-アンダンテの順で演奏したと書いたのは2人に過ぎず、実際の演奏会を聴いて書かれたものか疑問があるとしています。

また、ブルーノ・ワルターマーラー自身がアンダンテ-スケルツォの順番を否定したことはないとの手紙を残しています。

個人的には今回記載させていただいた順番の演奏をお勧めします。

 

ハンマー打撃

もうひとつがハンマー打撃です。マーラーの自筆稿では、作曲当初にはハンマーの導入は考えられておらず、後にハンマーを加筆したときは、第4楽章で5回打たれるようになっていました。第1稿を出版する際にこの回数が減らされて3回となりました。さらに初演のための練習過程で、マーラーは3回目のハンマー打撃を削除し(代わりにチェレスタを追加)、最終的に2回となったそうです(第2稿)。

具体的には、最終楽章のコーダ部分、三度序奏の主題が回帰しモットー和音が鳴らされるところで、第3のハンマー打撃が入れられていました。演奏は、マーラーの最終決定に基づき、2度の打撃によるものが多いが、レナード・バーンスタインによる数々の演奏のようにアルマの回想に基づいて3度ハンマーを打たせる演奏もあります。

ハンマー打撃には意味づけがなされることがあり、佐渡裕題名のない音楽会でこの曲を取り上げた際に、「第1の打撃は『家庭の崩壊』、第2の打撃は『生活の崩壊』、第3の打撃は『(マーラー)自身の死』」との意味付けを紹介し、「マーラーは「自身の死』を意味する第3の打撃を打つことができなかった」としている。なお、佐渡がハンマー打撃を3度としているのは、佐渡の師であったバーンスタインの影響によるそうです。

 

さて、マーラーの第6番を「かずメーター」で評価しました。

第一楽章 97点

第二楽章 90点

第三楽章 95点

第四楽章 94点

個人的には全部お勧めなんですが、特に第3楽章。大好きです。なんてきれいな旋律なんでしょう。涙ものです。本当に大好きです。

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お勧めのCDです。